東京地方裁判所 昭和40年(行ウ)25号 判決 1971年4月20日
原告 竹腰宏 他六名
被告 東京国税局長
訴訟代理人 光廣龍夫 外四名
主文
原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一当事者の申立て
(原告ら)
被告が亡竹腰進一に対し昭和三八年一二月二六日付でした竹腰糖業株式会社の滞納に係る国税の納付告知処分のうち昭和三九年一一月二六日付の決定によつて維持された部分を取り消す。訴訟費用は被告の負担とするとの判決
(被告)
主文と同旨の判決
第二原告らの請求原因
原告らは、竹腰進一の相続人であるが、被告は、竹腰糖業株式会社には法人税等の国税五、九六八万七、一四二円の滞納があり、同社の財産について滞納処分を執行しても、その徴収すべき額に不足が生じ、その不足は、当該国税の法定納期限の一年前の日以後である昭和三五年四月一日、同社が粗糖外貨割当権を四、〇〇〇万円で台糖株式会社に売却したにもかかわらず、右代金を進一個人が収受したことに基因するものであり、したがつて、進一にはその受けた利益の限度額四、〇〇〇万円の範囲内において、右滞納に係る国税の第二次納税義務があるものと認めて、昭和三八年一二月二六日付で、進一に対し、竹腰糖業の前記納付税額について納付告知処分をなし、右納付税額は、昭和三九年一一月二六日付決定で、四、〇〇〇万円に減額され、進一は昭和三九年三月四日死亡し、原告らがその権利義務を承継した。
ところが、竹腰糖業は、被告のいうようにその粗外糖貨割当権を台糖に売却した事実はなく、竹腰糖業の粗糖外貨割当権が台糖に移転するに至つたのは、台糖が昭和三五年四月一日竹腰糖業の発行済株式の全部にあたる一万六、〇〇〇株(額面合計八〇〇万円)を同社の代表取締役でありまたその株主であつた進一から代金四、〇〇〇万円で譲り受け、竹腰糖業に対する支配権を獲得したことによるものであるから、右四、〇〇〇万円について、竹腰糖業は、何らの権利をも有するものでなく、進一にその返還債務の免除等の利益を与えるに由なきものというべきである。そして、台糖が竹腰糖業の粗糖外貨割当権を入手するには、食糧庁において粗糖外貨割当権そのものの売買を認めていなかつたために、右のごとき株式譲渡の方法によらざるを得なかつたのであるが、該株式譲渡については、台糖では昭和三四年三月二七日及び同年一二月一一日開催の各取締役会においてその旨の決議がなされ、昭和三五年四月一日付で進一らの間に株式売買契約が取り交わされ、同年夏ごろその株式全部の引渡しがなされ、また、前叙のごとく、その代金四、〇〇〇万円が現実に台糖から進一個人に三回にわたつて支払われているのであるから、もとより、該株式譲渡は、真実、進一との間に行なわれたものであること明らかである。もつとも、株式の譲渡代金が粗糖外貨割当権の時価を基準として決定されたことは、事実であるが、これは、竹腰糖業には粗糖外貨割当権を除けば殆んどみるべき資産がなかつた事情に基づくものであるから、右の一事のみをもつて、被告のごとく、進一個人と台糖との間になされた竹腰糖業の株式の譲渡が、実質的には、竹腰糖業と台糖との間の粗糖外貨割当権の売買であつて、その実態為と認を隠ぺいするための仮装行為又はそれの租税回避行めることは、許されないものというべきである。それ故、被告のした前記告知処分は、違法であつて取り消すべきである。
第三被告の答弁
原告主張の請求原因事実のうち、竹腰糖業株式会社が台糖株式会社に対して粗糖外貨割当権を売却した事実がない点は否認するが、その余の主張事実はすべて認める。
第四証拠関係<省略>
理由
本件告知処分の経緯が原告ら主張のとおりであり、また、竹腰進一が昭和三九年三月四日死亡して原告らがその権利義務を承継したことは、当事者間に争いがない。
ところで、原告らは、竹腰糖業株式会社がその粗糖外貨割当権を台糖株式会社に売却した事実はなく、右割当権が台糖に移転するに至つたのは、台糖が昭和三五年四月一日竹腰糖業の全株式を代金四、〇〇〇万円で買い取つたことによるものであると主張し、<証拠省略>には、右主張にそう旨の記載がある。しかし、株式譲渡時であると主張する昭和三五年四月一日当時竹腰糖業は、粗糖外貨割当権を除けば、資産のみるべきものを有しておらず、また、株式の引渡しの行なわれたのも、右譲渡時より三か月余を経た同年夏ころであることは、原告の認めて争わないところであるばかりでなく<証拠省略>によれば、前掲<証拠省略>の株式売買契約書自体も実際には、その日付の昭和三五年四月一日ではなく、それよりかなり後になつて作成されたものであり、株式の名義書換えも、昭和四〇年以降に行なわれたこと、また、進一は、前叙のごとく、竹腰糖業の全株式を台糖に譲渡しておきながらその後も同社の代表取締役の地位にあつてその経営を主宰し、台糖において同社の経営に関与した事実のなかつたことが認められ、さらに、当時製糖業界では、砂糖輸入の自由化に備えて企業の合理化、再編成の必要があつたところから、大手メーカーが粗糖外貨割当権の買収に乗り出し、該割当権は、それ自体独立の権利として、頓当り三万五、〇〇〇円ないし四万円の高値で取引されており、台糖も、竹腰糖業から約一、〇〇〇頓分の粗糖外貨割当権を買い入れることとなつたが、その方法については、課税事情に明るい進一の提言を容れて、非課税となつていた株式譲渡の形式をとり、竹腰糖業の再製糖工場設備の時価及び粗糖外貨割当権の時価で全株式を譲り受けることとし、その旨昭和三四年三月二七日及び同年一二月一一日の再度にわたり取締役会の承認を受けていること、ところが、食糧庁としては、業者間における粗糖外貨割当権そのものの売買を認めず、業者が正式に右の割当権を入手するためには、工場設備の買収、合併、営業権の譲受けのいずれかの方法によらざるを得なかつたところから、竹腰糖業は、昭和三五年二月一五日開催の臨時株主総会において、再製糖工場を台糖に売却する旨の議決をなし、台糖とともに、それぞれの所属する日本再製糖工業協同組合と日本精糖工業会を通じて、食糧庁長官に対し再製糖工場の売買に関する承認申請書を提出し、同年四月一二日付でその承認を受けていることを認めることができ右認定に抵触する<証拠省略>の各記載部分は、前掲各証拠と対比してたてやすく措信することができず、他に該認定の妨げとなる証拠はない。しかして、以上認定の諸事実に、進一が台糖に譲渡した竹腰糖業の全株式の譲渡価格が粗糖外貨割当権の時価だけを基準として決定されたという当事者間に争いのない事実を併わせて考えれば、進一が<証拠省略>記載のごとく台糖に竹腰糖業の全株式を譲渡したことが、被告主張のごとく全く仮装の行為であるとはいえないとしても、竹腰糖業がそのころ約一、〇〇〇頓分の粗糖外貨割当権を台糖に売却したことは、否定し得ないところであつて、台糖が竹腰糖業の代表取締役であつた進一に交付した前記四、〇〇〇万円は、右粗糖外貨割当権又は同割当権と株式の譲渡代金(但し、株式譲渡代金は零)てあるというべきである。
よつて、右四、〇〇〇万円が竹腰糖業の粗糖外貨割当権の譲渡代金でないことを前提として、本件告知処分の取消を求める原告らの本訴請求は、その理由がないので、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条民訴法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 渡部吉隆 中平健吉 斎藤清実)